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ホクモウ事例紹介

漁場再生への取り組みについて 〜マイナスからの出発〜

■はじめに

ホクモウはこれまで、数々の定置網漁場の敷設に携わってきました。
その中には、定置漁業実績の全くない海域への敷設、潮流の速い漁場での敷設など様々な事例がありましたが、とりわけ苦労するのは荒廃した漁場の再建です。
例えば朽ち果てた空き家の場所に新築一軒家を立てる場合、その取り壊しから始まるのと同時に打ち合わせ・設計・見積もり、基礎の改修、などと続きます。定置網漁場でも同じように、現存漁具の撤去とその劣化具合の調査、海域の掃除など、ゼロからというより、マイナスからのスタートとなります。
このページではある1つの漁場を例に荒廃から復活までの道筋を紹介します。


■漁場の衰退

まずは西日本のある漁場(以下、A漁場)の水揚げ高の推移を見ていただきます。
この漁場は全国的に名の知れたブリの銘漁場と言われ、明治時代から大敷網が営まれていました。良い年には1億円を大きく上回る水揚げがありましたが、1999年ごろから徐々に減少して0円に近づいていきます

折れ線グラフ

水揚げ高が低い水準で低迷し始めた2002年ごろには、漁具の劣化-破損-休漁-修理を繰り返し、水揚げが少ないうえに修理コストがかかる、いわゆる『負のサイクル』に入ってしまったのでしょう。2009年に調査した際には漁具は汚れて沈み魚礁と化していました。その後、ついに機能不全に陥り水揚げはなくなりました。

折れ線グラフ
折れ線グラフ

参考写真:付着生物によって汚れて沈んだ第2箱網


■漁場の整備

漁場・漁具が手付かずのまま残されると、新しく定置網を敷設することも、底曳網や延縄などの他の漁業をすることもできなくなるどころか、残された残骸が船舶の往来の障害になったり、流出した残骸が他の定置網に損害を与えたりと、他者に損害を与えることにもなりかねません。
ホクモウでは漁場を更地に戻す際、これまで蓄積してきたお客様の漁場データをもとに漁具の敷設位置・形状を導き出し、測深器や水中カメラを使った海底調査を行います。そしてそこに残骸が見つかった場合は自走式水中カッターを駆使してロープを切り、それらを引き揚げます。また、網漁具は陸上に揚げ、その設計や破損具合を調べ、再利用可能かどうかを判断します。
A漁場では全ての碇綱を水中カッターと碇綱専用鎌を用いて約半月間の撤去作業を行い、4トントラック10台分の残骸を撤去しました。

整備
参考写真:漁場に残された残骸の撤去作業(北陸地方)
自走式水中カッターによるロープの切断
整備
参考写真:漁場に残された残骸の撤去作業(北陸地方)
切断した残骸の引き揚げ作業
整備
参考写真:災害により流出した漁具の回収作業(関東地方)

■漁場位置の再設定と漁具の設計

更地になった漁場で新たに定置網を敷設することになれば、やっとゼロからのスタートとなります。
それまで定置網が敷設されていた場所にはまだ固定具の残骸が埋まっており、新たに設置した網に悪さをする可能性があります。また、銘漁場と言われた場所であっても、水揚げ高が減少した経緯があることから、その場所の潮流や魚道が時間とともに変化した可能性も否めません。
したがって漁場の再調査と敷設場所の見直しが必要になります。これもホクモウの技術者が専用の機器を使って調査します。大型定置網は知事許可漁業で、免許枠での漁場設定は絶対条件となります。

整備
参考図:測深調査結果をもとに漁場位置を設定

敷設場所や投資の規模などが決まれば、漁具の設計に入ります。
設計は網を敷設する水深、対象となる魚種、漁船と乗組員の機動力など様々な要素を考慮しお客様と検討を重ねて行います。
定置網の新規設営には1億円を優に超える投資が必要なことや、その設計が今後何十年と乗組員とその家族の生活を支えること、その地域の経済の基盤となることを考えると、設計は最も重要でミスの許されない作業となります。
A漁場では、投資の規模をできる限り抑えること、所有する漁船が古く機動力が半減することなどに配慮して設計され、約2億円をかけての再建計画となりました。

漁場
参考写真:敷設直後の側張り(網入れ前)

■漁場の復活

漁具を設計し仕様を決定してからはホクモウ生産部門の仕事となります。
網は糸から作り、人の手によって仕立てられ、検査や染網加工を経たうえで納められます。
この工程には、網の規模や仕様にもよりますが全てのパーツを新品で製作した場合には半年近くを要します。A漁場でも約4か月で漁具資材一式を準備しました。
しかし、苦労したのは資材の準備よりも、人材集めとその育成となりました。乗組員を募集し雇用するのはお客様の役割となります。
しかしその中に技術を持った船頭がいなければ定置網の敷設や網入れ、操業方法など、漁場運営が漁業者自身でできるようになるまで技術アドバイスを行うのはホクモウの役割となります。
A漁場を敷設するに当たっては、ホクモウの技術者が乗組員と一緒に作業をしながら技術を指南し、約1か月をかけて操業ができるまでに漕ぎ着けました。初操業でマダイ、マアジなどが約5トン漁獲された時は、その喜びもひとしおでした。
お客様と分かち合うこの喜びこそ漁業者と共に歩むホクモウ社員の原動力であり、ホクモウの仕事の面白さでもあります。
A漁場は設営から1年半が経過した現在でも定期的に技術者を派遣し、漁場の成長を支援させていただいています。