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ホクモウ事例紹介

もうかる漁業事業を活用した大改革

千葉県南部の房総沖では戦前より大型定置網漁業が営まれ、ブリやアジ、サバなどの大衆魚の他、イシダイやヒラメなどの高級魚も多く獲れる優良な漁場として知られています(図1)。

漁場配置図
図1 漁場配置図

しかし、この外房エリアは、太平洋に面しているため波が高く、黒潮が接岸するため潮が速い場所です。またこの地域は、網に付着する藻類や貝類などの生物の成長が早く、漁具の掃除には大変苦労しています。
このような海洋環境であるがゆえ、定置網は毎年のように時化や急潮によって破損しています。そのこともあり、資材や設計は強靭なものへと進化していきました。

現在の南房総市に位置する定置網2ヶ統は、1988年から地元漁協の自営定置網として、漁具を刷新して敷設しました。
当時は荒い海から網を守るため、側張りを沖側と陸側の2本ずつにした、2重側(図2)を採用しました。
これにより側張りが頑丈になり、漁具の損傷はいくらか軽減されたものの、依然として漁具の破損・修理の繰り返しでした。また、2重側になった分、メンテナンス箇所や、交換資材も増え、コストが増していました。

2重側の側張り図
図2 2重側の側張り図

時が経ち、船も古くなり更新の時期が近付いていた2016年、定置網を大改革し、地域を巻き込んで活性化しようという機運が関係者の間で高まりました。
ちょうどこの頃、水産庁によって、もうかる漁業創設支援事業が進められており、収益性改善に向けた新しい取り組みに対して、3年間の漁場運営経費や漁具の更新にかかった減価償却費の一部が助成される制度が適用できそうでした。
そこで、すでに組織されていた、千葉県地域プロジェクト協議会の中に定置漁業部会を新たに設立し、何度も改革案を協議しました。
部会はH漁協組合長を中心に金融機関、加工業者、研究機関など関連各分野から代表者が集まりました。
その成果により、2018年計画が認可され、翌年から事業をスタートすることができました。

資料

この改革では、当漁協の船頭をはじめ、職員・乗組員、ホクモウの英知を結集した最新の改革型漁具・漁船を導入しました。
その一部を紹介します。


『側張り形状とその資材』

側張りの設計はこれまでの2重側ではなく、1重側としました。
その中心資材として採用したのは、従来の金属製ワイヤーではなく、その代替品として開発した「新規格測張りロープ」という化学繊維製ロープでした。これは、国内大手のロープメーカーとホクモウが共同開発した、側張り専用のロープです。
これによりメンテナンスの簡素化と資材コストの削減が実現できました。また、新規格測張りロープは軽く、水に浮くため、安全に漁撈作業をすることができました。さらに、側張り自体に浮力があるため、側張りに装着する浮子の数を減らすことができました。

図3 2019年に1重側にした改革型側張り図と側資材の新旧仕様比較表


『夏網の稼働による周年操業』

当漁場では、夏から発生・接近が増えてくる台風に備え、8月には網を陸に揚げ、その間に漁具のメンテナンスを行っていました。
しかし、台風シーズンが過ぎても年内は時化が多いことや、2漁場分の2重側張り資材と、各パーツ2枚ずつある網のメンテナンスに多くの時間がかかることから、網設置完了が年を越すこともありました。
このメンテナンス期間の水揚げはなくなるため、漁協の収入が減るだけでなく流通や観光業にまでその影響が出ていました。
そこで改革の一環として、メンテナンスを簡素化した夏網を導入しました。
この網は、通常時の形から、網のパーツを減らした1段箱式で、台風が接近してもすぐに網揚げできることや、既存の網をそのまま使用できるなどのメリットがありました。
これにより、浜には1年中、魚が揚がり、地域の活性化につながりました。

箱式側張り図
図4 夏網の1段箱式側張り図

『船型』

H漁協の本船ブリッジは、形状を工夫することにより、クレーンの旋回範囲を大きく広げられる構造になっています。
ブリッジの上半分を台形にすることで、トモ(船尾)の角までクレーンが届き、側張りの補修や部品の交換時、網入れ時の網部品の接続には、非常に便利です。
これによってより安全化され、沖作業の省力化も実現できました。(図5、写真1)

本船ブリッジの形状とクレーン
図5 本船ブリッジの形状とクレーンの可動範囲
本船でのクレーンを使った作業
写真1 本船でのクレーンを使った作業

この大改革では他にも、「環巻き本数の削減による省人省力化」や「漁具洗浄用ポンプの導入によるメンテナンスの省力化」、「魚どり袋の改造による操業船の減船」など、様々な取り組みが盛り込まれ、一定の成果を出しています。

H漁協のもうかる漁業事業は、令和元年度の1年目、翌年の2年目には計画水揚げ金額を大きくクリアし、現在3年目に突入しています。
改革以降、COVID-19、台風の襲来を除けば、水揚げ、漁具運用、流通などすべてにおいて順調に推移しています。この好循環を維持するため、ホクモウはお客様と連携し、生産の拠点である定置網漁場の保全に努めています。

H漁協所属、2艘の旧本船

H漁協所属、2艘の旧本船

新造本船

新造本船