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ホクモウ事例紹介

門前大敷の挑戦 〜水深77mの2段箱式定置網〜

ホクモウは輪島市門前町沖に2ヶ統の大型定置網を運営しています。現在では最新鋭の設備を備え、安定した水揚げを誇る試験・研究漁場として、様々な技術の創出や人材の育成を行っています。
そんな門前大敷ですが、創設から現在のような好漁が続いていたわけではなく、網の流出・破損事故や、網型・設計の改革を積み重ねて、優良な漁場へと作り上げてきた経緯があります。その概要をここにご紹介します。


■漁場と歴史

昭和50年代、石川県輪島市(当時は鳳珠郡)門前町では鹿磯沖に1ヶ統、深見沖に1ヶ統の大型定置網がありました。その鹿磯沖の定置網の免許をホクモウが借り受け、昭和53年から経営するようになりました。
昭和61年には深見沖の定置網の免許も借り受け、隣り合う2ヶ統の漁場を経営するようになりました。
平成元年には深見沖の免許を鹿磯沖に移動。鹿磯沖で2ヶ統を沖陸方向に連結した2階式定置網として現在まで稼働しています。

漁場等深線図

■網型と水揚げの変遷

創設当初から昭和63年までの網型は大型定置網としては一般的な「2段箱式」でした。年間水揚げ高は2ヶ統経営した3年間で平均9千万円でした。

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平成元年からスタートした沖網は「マント式」を採用しました。これは、沖網漁場の水深が77mと深いため、2段箱式にすると巨大な網になり、操業効率や当時の技術(特に船の機動力)を考えると漁場の維持が困難と思われたからです。マント式にすることで、限られた免許枠のエリア内にコンパクトに網を敷設し、操業することができました。
また、この時から2階式定置網となったため、沖網と磯網の相乗効果が発揮され水揚げが大幅に伸びました。沖網の道網は磯網の沖道網としての役割を果たし、沖網はそれまで磯網の沖を通過していた魚群を捉えることができました。

しかし、海岸線とほぼ平行に流れる速い潮流に対して、沖陸方向に設置する昇り網やマント網が吹かれ上がり、網の水中形状が思わしくありませんでした。

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平成4年からは、前年の大時化により沖網を大破したのを機にマント式をやめ、77mという水深の深い漁場での2段箱式に挑戦することとなりました。
またこの翌年から沖網の第2箱網を粗目化(目合いサイズ75mm)しました。これらの改革によりさらに水揚げを伸ばしました。
しかし、平成13年から立て続けに大型クラゲの来襲や台風による大時化などに見舞われ、その対応や網修理、時には休漁を余儀なくされ水揚げが低迷しました。

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そこで平成18年、潮流対策、大型クラゲ対策を施した網型に沖網を改革、平成22年には磯網も最新鋭の網型に改革しました。これらの改革により門前大敷は2.5億円前後の水揚げを安定して漁獲する漁場へと成長しました。

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■門前大敷の努力

門前大敷は網型の改革だけでなく、操業や出荷の方法、漁具のメンテナンスなどにおいて、様々な工夫と努力をしており、高い水揚げ水準を維持しています。その例をいくつか挙げます。

1.出荷調整金庫の導入

門前大敷では平成8年から第2箱網の先に「出荷調整金庫」を設置できるようにしました。
これにより、魚が大量に獲れた時に、それら全てを一気に市場に出すのではなく、出荷調整金庫に入れておくことで数日〜数週間にわたって活かしておき、市場の相場が良い時に出荷することができるようになりました。
春にたくさん獲れるブリやイワシ、夏に値段が高騰するマアジなどを出荷調整することで、漁獲物の平均単価を高い水準で維持しています。

仕組み

2.メンテナンスの強化

長期間にわたって海中に設置されている定置網には、貝類や海藻類が付いたり、漂流物が引っかかったりします。またその定置網は常に、波浪と潮流にさらされて劣化が進みます。門前大敷では漁具が健全な状態で漁獲を続けられるよう、点検やメンテナンスを強化しています。
例えば、水中カメラによる点検は、平成18年以降は年間4回以上行い、測量やドローンによる側張りの形状確認も頻繁に行っています。網は汚れにくくなるよう、防汚加工を施し、側張りは高圧洗浄機等を用いて定期的に掃除しています。
このような取り組みにより、大きなトラブルもなく、円滑に漁場運営を続けています。

点検
確認

3.操業タイミングの見極め

多くの漁場では漁獲物の出荷を市場のセリの時間を基に出港時刻を決めています。門前大敷も近年の出港時刻は1時30分となっています。ところが、天候や潮流によって操業ができない日がよくあります。以前は出港前に強風であったり、漁場に付いた時点で潮が速かったりしたら、その日は休漁日となっていました。それが平成18年の改革以降は操業時刻に海が荒れる予報であれば出港時刻を早くしたり、潮が速ければ収まるのを待ったりして、操業を優先して出港時刻を柔軟に変更するようにしました。こうすることで、操業率を約1割向上させることができました。
令和元年からは、第2箱網内に遠隔監視魚探「魚っちV」を導入しています。これによって宿舎でモニターを見ながら網内にどんな魚がどれくらい入っているかが推定できるようになりました。
これを活用して、目立った反応があれば操業に出るようにしています。
今後はこの推定の精度を高めることでさらなる操業率、水揚げの向上が期待できます。

点検
魚っちVで見た魚群の映像

■省人省力化

門前大敷の乗組員は現在13名となっています。この規模の定置網をこの人数で安全に運営できるのは、省力化された漁具と最新鋭の漁船があるからこそです。
磯網では水深39mの漁場を6名の乗組員で操業しています。これは第2箱網に工夫を凝らし、2本環巻き(2本のロープで網を絞り揚げていく)での操業を可能にしたからです。
沖網の側張りには「メガライン(東京製綱繊維ロープ社製)」という化学繊維ロープを採用し、金属部品を減らすことで、管理しやすくしました。
磯網操業船と沖網操業船の2隻には2台のクレーンを搭載しており、操業はもちろん、側張りのメンテナンス、網の入れ替えなどにフル活用しています。

このように門前で培われたこれらの研究成果や省人省力化の技術は定置網の設計にも反映され、全国の漁場で活用していただき、普及していきます。

漁船

■今後の展望

門前大敷では技術の向上や開発を目指し、常に新たな取り組みに挑んでいます。そこには大きなリスクや苦労が伴います。これまでの経緯を見ると、失敗や自然災害との戦いを重ね、その度に改革に挑戦して水揚げを向上してきたのが良く分かります。このように、定置網漁場を作りあげる手法も、門前大敷での試験の成果となっています。
水揚げに伸び悩む漁場や新たに設営された漁場こそ、門前大敷のように漁場のことを徹底的に調査・検討し、失敗を恐れず改革に挑戦する必要があります。その時にはぜひ門前大敷の取り組みを参考にしていただき、培った技術を活用いただきたいと思います。