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ホクモウ事例紹介

定置網漁場におけるドローンの活用

1.はじめに

近年、ドローン(無人航空機、無人潜水機)が安価で手軽に扱えるようになり、急速に普及し個人での所有も増えています。
2019年度の日本国内の空中ドローンビジネスの市場規模は1409億円と推測され、それはさらに拡大傾向にあります。
2025年には約6427億円に拡大するとの予測もあります。
水中ドローンにおいても2020年度の国内の産業用水中ドローン市場規模は20億円で、2023年度は38億円へ成長するとも言われています。

多くの産業でその用途開発が行われ、水産業においてもその活用が期待され研究されています。

すでに多くの自治体や研究機関、民間企業では空中・水中ドローンが導入され、藻場のモニタリング調査や漁場探索、漁礁の設置状況確認などが行われています。

2015年12月には改正された航空法が施行され、海面または地表から150mを超える上空、市街地周辺や空港周辺の上空、人口密集地の上空などでの飛行は国土交通省への許可申請が必要となりました。
さらに、夜間飛行や目視外飛行の禁止、多数の人が集まるイベント上空での飛行禁止などの制限も設けられました。
詳しくは国土交通省のホームページを参照ください。

近年、急速に普及している水中ドローンにおいては、漁業者からの問い合わせも多くなっています。
これまで、定置網の水中での状態を確認するためには、潜水士に潜ってもらうか、高価で大がかりなROV(無人潜水機)を使って観測する方法がありました。
しかし、水中ドローンは数十万円程度で購入でき、誰でも簡単に操作できるようになっています。

こうした中、弊社でも定置網漁場の点検や空撮をするため2015年4月にドローン1号機を導入し、その後も故障した物も含めて5台を導入して現在に至ります。
水中ドローンは2018年から2台を運用し、全国各地の漁場で活用しています。

2.所有するドローンについて

■空中ドローン

弊社では現在は3台が稼働しています。
これらは全てDJI社製の「FHANTOM」シリーズで、一般的に広く普及している機種です(写真1上)。

この機種の特徴は安定したホバリング、4Kカメラの搭載、離陸地への自動帰還などがあり、初心者でも扱いやすい性能を備えています。
重量は本体約1.3kgで、片手で持てるほど軽く、容易に持ち運びができます。準備・片付けも慣れれば数分のうちにでき、漁場に着いたらすぐに飛ばすことができます。

■水中ドローン

現在10種類程度の機種が市販されている中、弊社では「CHASING M2」という機種を使っています(写真1下)。
この機種は最大深度100mで、上下左右、360°あらゆる方向を向くことができ、ホバリング機能、LED照明搭載など様々な機能があり、水中を自由に泳ぎ回ることができます。
本体重量は約4.5kgで、ROVと比較すると安価で手軽に扱えるため、定置網の調査では、朝の操業帰りにでも、伝馬船のような小さな船からでもすぐに運用することができます。


写真1 弊社所有の空中ドローン上 と水中ドローン下

3.ドローンの用途

■空中ドローン

定置網は側張りと言われる海上に張り巡らしたフレームに網を仕掛けます。
その側張りは時が経つにつれて、波浪や潮流によって形が崩れていきます。形が崩れたまま放置しておくと、側張りが切れて網が流されたり、網が大きく破れたりします。したがって、定期的にその形状等を点検する必要があります。
ドローンを使った空撮の調査では、側張りの全体像を映して設計図と照らし合わせ、お客様に歪んだ側張りの調整方法や改善策をアドバイスします。また、低空飛行することで、側張りの細かい部品や網がかかっている状況も見ることができます。
今までは船で側張りを周回していた点検作業を、省人省力化できるようになりました。

この他、側張りを新しく建て込んだ時には、それが設計通りに正確に設置されているかの確認を行います。
ドローンにはGPSが搭載されており、位置の確認も可能です。
空撮したものは、新しく設置した定置網の記念写真としても残しておきたいものです。

■水中ドローン

弊社が以前から行っているROV(無人潜水機)を使った水中カメラ調査と用途は変わりません。
網が正常に機能しているかの点検や、網設置前に海底に障害物がないかの海底調査、側張りがしっかり固定されているかの碇綱の点検調査などです。

水中ドローンを使うようになって何が変わったかというと、一人で持ち運びでき、乗用車で現場に向かい、小さな船に乗って少人数で調査に出ることができることです。
今まで重たい発電機やモニターを積み下ろししていたことを考えると、かなり楽な作業になりました。
撮影した映像もすぐに手元のスマホやタブレットで確認することができ、お客様は何かトラブルがあればその場で対処することができます。また、撮影した映像はSDカードに保存されており、保存や編集が容易にできるので便利になりました。

4.実用例

■空中ドローン

定置網は大型の物では運動場から魚捕りの長さで600mを超えるものもあります。
この全体像を魚眼効果のあるカメラを使わずに1画面に入れようとすると上空300m以上、上昇しなければならず、航空法の制限である150mをはるかに越えてしまいます。
この場合は事前に国土交通省に許可申請する必要があります。上空150mから撮影した画像をパソコン上でつなぎ合わせて1枚の全体像にすることも可能です。
定置網本体部分の空撮の一例を写真2に示します。

写真2 定置網本体の全体像の撮影

写真3 登り登り・運動場の撮影

写真3はある漁場の昇り・運動場の画像です。天張りのゆるみ、網と側の接続ロープの不ぞろい、潮による裏口障子の吹かれなどが見られます。

このように、船からでは見られない目線で漁具を観察でき、側形状の修正やメンテナンスなどに役立ちます。

この他、定置網漁場でドローンを飛ばしている中で定置網以外にもさまざまなシーンの撮影に役立つことが分かりました。

写真4は台船を使った側の張り建て風景です。
右側の本船には碇綱の付け根があり、クレーンには土俵が吊り下げられ投下の指示を待つ様子が鮮明に写っています。漁場の建て込み時の映像を撮影し、後世のために記録として残すのに役立ちます。
また、漁場の初起こしや大漁時、船の新造時の記念撮影としても適しています。

写真4 台船を使った建て込み風景の撮影

写真5、6は低空飛行で定置網を見たときの様子です。
写真5では時化によって破れた道網が見られます。このように、時化後の点検のために用いることができます。船上からでは見づらい被害の全貌や、海面の様子などが見られます。

写真6では側の汚れや引っかかった障害物が見られます。側掃除が行き届いているかどうか、流木がかかっていないかなど、防災対策や日常の側点検にも活躍します。

写真5 時化で破れた道網

写真6 網の汚れや掛かったごみの様子

■水中ドローン

定置網は前述のように大きく、水深の深い漁場では100mを超えます。したがって、網の点検調査では素早く動き、鮮明に網を映し、深い所でも明るく映せる必要があります。
水中ドローンは、あらゆる角度にボディーを傾けることができるため、潜行も上昇も速く、目的のポイントまでも速く移動できます。またそのケーブルは細くて軽く、送り出しや回収が楽に行えます。
注意することと言えば、その細いケーブルを、強く引っ張ったり貝類の付いた側張りや船体に接触させたりしないようにすることです。また、定置網の網目のサイズは部品によっては非常に大きく、水中ドローンのコンパクトなボディーが網の目を通過してしまいます。網やロープに引っ掛けてしまうと外すのには一苦労です。漁具に近づきすぎないことと、狭い所には極力入らないことが賢明です。

写真7は網内を魚が遊泳する様子です。網は鮮明に映り、それに対する魚の行動もよく観察できます。
写真8は船のプロペラを点検した時の様子です。水中ドローンを船に常備しておけば、プロペラに何かが絡まった時や、操業中に網にトラブルが起こった時にもすぐに点検ができます。

写真7 金庫網内での魚の観察

写真8 定置網本船のプロペラの点検

5.将来性

■運搬用ドローン

最近ではドローンを使った宅配や農薬の散布など、ドローンに物を乗せて運ぶ試みも話題になっています。
定置網では沖作業が長引いた場合、伝馬船で弁当を運ぶことがあります。
また、作業中に修理糸が足りなくなったり、工具がなかったりして陸まで取りに帰ることもあります。さらには船から船へロープを渡すことがあります。
今後、さらにパワーがありかつ簡単に操作できる機種が登場すれば、それらの運搬手段としても活躍することが期待されます。

自宅や番屋のテレビで側点検

空中ドローンのFHANTOMにはあらかじめアプリの地図上に設定した経路に沿って飛行する機能があります。
緯度・経度を入力して経路を設定することもできます。このアプリを使えば、毎回同じ経路・高度で定置網上空を周ることができます。機体との最大通信距離はFHANTOM3ではコントローラーから約2km、FHANTOM4なら3.5kmです。
漁場が漁業者の自宅や番屋のすぐ近くにあれば、室内のテレビから漁具の点検をすることも可能になります。(目視の範囲外で飛行させる場合は許可申請が必要になります)

1漁場に1台

一般的に市場に出回っている物は、ネット通販で購入することができます。
安価な物も登場しており、漁業者でも購入しやすくなっています。
今はたくさんの機種がありますが、定置網の点検に適した機種は限られます。これで定期的に点検することで、漁具のトラブルを防止またはすぐに対処することができれば、この費用対効果は絶大です。

空中・水中ドローンが定置網経営にとって必需品になることも遠くはない気がします。

ホクモウではお客様のご依頼に応じてドローンを使った各種調査を行っています。
今後も定置網漁場においてドローンを防災や豊漁のために活用していきたいと思います。