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ホクモウ事例紹介

定置網の安全性向上と
省人省力化について
〜もうかる漁業事業を活用した
定置網漁場の取り組みを例に〜

漁業における就労者数の減少や高齢化、後継者不足は長年の課題となっていますが、日本国内の少子高齢化問題とも重なって今後もすぐに解消されることではありません。
定置網漁業においても例外ではなく、後継者がいないことを理由に廃業する経営体も決して少なくありません。定置網がなくなった漁港では水揚げがなくなり、集落への人の出入りも少なくなり、沿岸の資源が有効活用されず、海の治安も悪くなります。
これによって、地域全体の活性が低下します。

近年では人材不足を補うために外国人研修生を雇用する経営体も増えてきていますが、少人数に加え経験の浅い乗組員での操業管理は安全性に不安が残ります。

しかし、近年では漁具資材や漁船、それに搭載される漁撈機器も進化しており、大型定置網を少人数で運用する経営体が増えてきています。大型機械の導入により乗組員の作業負担が軽減され、また安全に作業できれば雇用の促進に繋がります。
省人化によって人件費を削減し、かつ人材不足を解消することができれば定置網漁場の安定と経営の永続が実現します。

本稿ではもうかる漁業事業を活用してそのような問題を解決した、北陸地方のある大型定置網を例に安全性の向上と省人省力化の成功例を紹介します。


■O定置の概要

O定置は若狭湾内に2ヶ統(S漁場(水深35m)、M漁場(水深38m))の大型定置を運営しています。
この場所に定置網が設置されたのは約60年前であり、これだけ長く存続してきたその歴史は、この2漁場が定置網漁場として適していることを表しています。

漁期は春から晩秋にかけてで、サワラやブリ類を中心に年間約400トン、乗組員数12名で約1.2億円の水揚げをしています。


■大きな2つの問題点

・網規模のわりに小さな2隻の本船
改革前には操業は本船2隻(それぞれ8.5トン)を沖陸方向に並べてキャッチホーラーで網を揚げていく操業方式でした。この2隻操業の方式でも日々の操業には問題ありませんでしたが、大変なのは網入れ・網抜きなどの沖作業の時でした。

本船
本船

網入れ時には10トントラック1台程度の網を船のデッキ上に積んで漁場まで運ばなければなりません。網揚げ時には網に海藻類などの汚れが付き、さらに重たくなります。そのためO定置では1枚の網を2隻に分けて積み、2隻が歩調を合わせて漁港-漁場間を航行していました。当然、作業や航行は安全性に欠けているうえ、少しでも波のある日には作業ができませんでした。


運用面でもデメリットがありました。
操舵手は2名必要となり、操業も沖作業も2隻の歩調を合わせる必要があるため、どちらかの船にトラブルが起きると沖に出られませんでした。保守管理も2隻分の手がかかります。
その環境に慣れた当事者にとっては日常の光景でしたが、全国の漁場を知る弊社の技術者からみれば不合理な点がいくつも見受けられました。


・遠く離れた漁場
基地港と漁場は遠く離れており、漁場への往路は片道40分、復路では基地港とは別の水揚げ港を経由することとなり、1日の航行時間は100分に及びます。

その距離を前述の2隻の本船で航行するには様々なリスクを伴います。
船が小さくて狭いため、波がある時の航行は心地よいものではありませんでした。また、積載トン数が少ないため大漁の時には片方の漁場の漁獲をあきらめる場合もあり、加えて漁獲物を満載した船で航行するのは細心の注意を払う必要がありました。

漁場までの距離はどうにもできませんが、航行と沖作業の安全性を高めることが最重要課題と考えられました。



■解決策

・単船操業化
改革では19トン型の新型船が建造され、この1隻のみで操業や網入れ替えなどの沖作業が可能となりました。
この新型船はデッキの広さが旧型船1隻と比較して約2.4倍となり網を積載するのに十分なスペースが確保されたうえ、漁獲物の積載量は2隻で12トンだったところ1隻で20トン以上となり、大漁時でも2漁場の漁獲物を積載することが可能となりました。


新型船建造と同時に操業方式も改革しました。
第二箱網には環綱を取付け、熟練した技術が必要となるキャッチホーラー式操業から比較的簡単に取り扱える環巻き式操業に転換しました。こうすることで操業を省力化しかつ時間を短縮することができ、操業要員を1名削減することができました。


・安全で働きやすい漁場、扱いやすい漁具へ
本船を1隻にしたことで、僚船に気を使うことなく操業・作業ができ安全性が高まりました。また、大型化した本船は波浪による動揺も軽減され、航行時の安全性が大幅に向上しました。さらに、船には船室が設けられ、長い航行時間にも乗組員が安全に落ち着いて休息できるようになりました。

漁具においても安全性に配慮した取り組みがなされました。その一つが、側張り資材への化学繊維ロープの採用です。従来使っていた金属製ワイヤーロープと比べて軽くて取り扱い易く、耐久性の向上も期待されます。

また、これに合わせて連結方法も脱金具化をすすめ、電蝕のない側張りへの転換と作業労力の低減を図っています。

本船の機械化に対応して強靭化を施しつつ、2つの漁場を同じ仕様の漁具で統一することで、万が一の時化などで破損しても代わりの網がすぐに入れられる環境を作りました。

脱金具化による電蝕のない側への転換

これらの改革では主目的であった安全性向上、作業労力の低減、耐久性向上、コスト削減といった効果に加え、船が傷つきにくくなるなどの副次的効果も得られ、労働環境は大きく改善されました。

O定置では平成28年の改革以降、水揚げ水準が向上し毎年春になると大漁の朗報が届くようになりました。改革や生産に携わった社員も自分のことのように喜び、これが何よりの励みになっています。

このようにして、将来にわたって漁場を維持できる体制を提案し、軌道にのるまで支援させていただくことがホクモウの使命とも考えています。

ホクモウでは、従業員の人数、漁場の規模や漁獲量・対象魚種に応じて適切な漁船・漁具をご提案いたします。